映画 江戸川乱歩 石井輝男

『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』石井輝男の妖気-1

2019年9月29日

1969年、学校帰りの大阪環状線でぼんやり吊革につかまって、ふと下を見るとサラリーマンのオジサンが読んでいたスポーツ新聞に、2段1/4くらいの小さな広告で『江戸川乱歩全集』という文字が目に止まった。

本の広告ではない、映画の宣伝だとはわかったが、確かめるすべもなく、そのまま下車。

それが石井輝男の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』だと知るのはしばらく後のことで、実際に映画を観たのは住んでいた大阪府I市のI東映だった。

この時の悪夢のようなカルチャーショックが石井ワールドにハマるきっかけになった。2回続けて鑑賞したので、併映作品を入れると4本観たことになり、映画館を出ると夜になっていたことを昨日の事のように想い出す。

1969~70年にかけて怪奇幻想ブームとやらで講談社の『江戸川乱歩全集』全15巻を皮切りに『横溝正史全集』『夢野久作全集』、久生十蘭、小栗虫太郎など新青年作家の著作が続々と刊行されていた。

このような出版界の背景があり、乱歩好きの石井輝男が自ら東映に提案した企画だったらしい。しかし公開当時はあまり人は入らず、映画評論家の佐藤重臣が内外のホラー映画の一位にあげていたが一般に評価されるのは、まだまだ後のこと。

ちなみに「江戸川乱歩全集」には、ポスターや新聞広告にも使われていた横尾忠則の口絵が秀逸。妖しくも耽美な乱歩の世界を見事に表現していた。(後年、『江戸川乱歩推理文庫』の「巻末エッセイ・乱歩と私」で作品は読まずにイメージだけで描いたと語っていた。)第一巻配本の『屋根裏の散歩者』には付録も付いていた。

その後、何年かして『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』をプガジャ(プレイガイドジャーナル)――「ぴあ」みたいな関西で出されていた情報誌)――で見つけ神戸福原の新開地劇場まで足を運んだことも、懐かしい思い出。劇場前に例のおどろおどろしいポスターが張られていたのが感動的だった。

このポスター、北米版DVDではジャケット裏に印刷されている。ポスターに写っているシャム双生児は無名時代の近藤正臣と女性は石井映画で常連の美人ポルノ女優、由美てる子。先に公開された『明治大正昭和 猟奇女犯罪史』では高橋お伝を演じていた。

ちなみに併映は『丸秘劇画 浮世絵千一夜』という大人向けのポルノアニメーション。先に手塚治虫の虫プロが手がけた『アラビアンナイト 千夜一夜物語』のヒットに便乗して制作された。オレの知る限りビデオもDVDにもなっていない。

そして『恐怖奇形人間』も内容が内容だけにソフト化はされず、平成になってから名作座などで映画館上映され若者を中心に人気を博す。石井輝男のキング オブ カルトの称号はこの作品に寄るところが大きい。

ようやく待ちに待った2007年8月に『Horrors of Malformed Men』のタイトルで全米発売されたが、発売当初はリージョンオール(日本のDVDプレーヤーでも観られる形式)だった。オレも早速アマゾンで購入。北米版では特典に、石井輝男がイタリアの映画祭に招待されたときのドキュメンタリーと塚本晋也のインタビューがついている。

その後、同じく日本では当時DVD化されていなかった『怪談昇り竜』の海外版もネットで買った。この『怪談昇り竜』昭和の時代民放TVの午後の邦画劇場みたいので初めて観た。昼間に石井ワールドがテレビで観られた、おおらかな時代ではありました。

石井輝男監督13回忌の2017年にようやく「残酷異常虐待物語 元禄女系図」「やくざ刑罰史 私刑(リンチ)!」を合わせた3作品が初DVD化された。今では、TSUTAYAやGEOでも借りることができて、隔世の感がある。

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梶トシユキ

このブログの管理人。昭和の風俗やサブカルをこよなく愛する好事家オヤジ。趣味は本屋と古書店そして温泉巡り。動物園前から飛田新地を抜け、旭通(旧あべの銀座商店街)を通り、天王寺まで歩くのが時々の散歩コース。大阪出身。ハンドルネームは、昭和の性豪作家である梶山季之に由来する。東京や大阪に出没。

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